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50年前に行われたビートルズの来日公演にまつわる本のご紹介です。翻訳でお手伝いさせていただきました。

ビートルズに関する本は、トリビアを集めたものや、データ本のようなもの、作者の思い入れたっぷりのものなど様々ありますが、この本がユニークなのは、日本公演を観た当時の若者の証言が中心になっていることです。日本公演関連の貴重なお宝や、当時発売された週刊誌などの記事(「ポール!私と見た朝焼けを忘れないで」など、見出しを眺めているだけでも楽しめます 笑)の写真だけでも大満足ですが、インタビューや座談会、アンケートによる、日本公演を実際に観た人々の生の声が丁寧に取材されていて、それが読み物として抜群におもしろいです。

頭と体をフル回転してようやくチケットを入手したこと、当時ビートルズは不良の音楽とみられていたので、学校や先生の反対をかわして観に行ったこと、公演中は意外にも冷静に状況を観察していたこと、武道館の行き帰りのルート、クラスメイトや友人たちの反応など、くすっと笑えたり(子供らしいかわいさと生意気さが最高です)、ハラハラしたり、ほろっとするようなエピソードもあり、このまま証言を集めたドキュメンタリー映画が作れるのではないかと思うくらい、証言者の記憶が鮮明なことと、お話しが上手なことに驚かされます。

ビートルズの日本公演を観たことが、その後の人生にどう影響を与えたか、という質問に対するみなさんの答えがこの本のハイライトではないかと思いました。自分の考えで行動すること、自由であることの大切さなど、今も続く証言者の思いに、大人の私も勇気づけられましたし、当時のみなさんと同年代の今の若者にも是非この本を読んでほしいなと思いました。

この本は野口淳さんと藤本国彦さんが作られたのですが、野口淳先生は私の高校の恩師で、英語の先生でした。先生はビートルズや洋楽の歌詞を使って授業をされていましたので、この本の中でビートルズによって英語が好きになった方が多かったことを知り、「ああ、先生がやられていたのは、こういうことだったのか。」と納得しました。先生はビートルズのような有名なグループでも、語り継いでいかないと忘れられてしまうことを心配されて、若者にもビートルズの良さを伝えたいと、ビートルズ資料館を無料で運営されていたり(現在はお休みしています)、今でも様々なビートルズに関する活動をされています。

私が翻訳させていただいたのは、日本公演に同行したイギリス人ジャーナリストによる当時の記事です。若いころから、洋楽に関する翻訳や通訳の仕事をしたいと思っていましたが、人気がある仕事ですので、20年くらい翻訳の仕事をしていてもまわってくることはありませんでした。野口先生からお話しをいただいたときは、大げさですが、これでいつ死んでも心残りはないと思いました。今でも、うれしさと、自分で良かったのかなとドキドキしていますが、ここでどうやって翻訳したか紹介したいと思います。あくまでどのような翻訳を目指していたかで、実際にそのように仕上がっているかは別問題なので、ご了承ください(汗)。

まず、うれしかったのは、元の記事がとても好みの文だったことです。イギリス人ジャーナリストの文、特に音楽関係は、辛辣だったり、シニカルであることも多いです。または逆に、アイドルの記事などは甘ったるい文が多いのかなと思います。でもこのジャーナリストの文は、日本に対する偏見も感じられず、冷静で真摯な印象を受けました。かなり硬いジャーナリスティックな文体なので、なるべく原文の文体をいかすような和訳を心がけました。ビートルズの来日記者会見中の質疑応答なども、調べれば様々な訳がでてくるとは思いましたが、原文の雰囲気を伝えたいので、あえて参考にしませんでした。また、原文のかっちりした文体と、ビートルズの発言の生き生きとしたカジュアルさの対比が浮かび上がるような感じを目指しました。

私は小学生のころからビートルズが大好きだったので、インタビューを見たり読んだりして、4人それぞれの人物像を勝手に作り上げているんですね。ジョンは皮肉っぽい、ちょっと怒ったようなしゃべり方をすることがあるので、土産店に関する彼の言葉は、そのイメージで訳しました。また、ホテルでマッサージを受けたときの感想が、自分がイメージしていた彼らにぴったりのものだったので、読んでいて「やった!」と思いました。ジョンが一人だけマッサージを受けなかったのも彼らしいなと思いましたし、何よりジョージの感想が、その後ビートルズ後期からソロまで、ずっと精神世界を追求する彼らしいものだったので興味深かったです。ポールの感想も、彼特有のやや上からものを言う感じ(失礼!)が最高だなと思いました。このような感じで、訳していてとても楽しかったです。

野口先生と藤本さんのトークイベントを見に行ったときに、この本をより多くの方に読んでもらいたいので、お近くの図書館にリクエストしてくださいとおっしゃっていました。当時を知るシニア世代にも、その後の私たち世代、若者にも是非読んでもらいたいと思います。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%82%92%E8%A6%B3%E3%81%9F-~50%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E3%81%AE%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88~-CD%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%83%83%E3%82%AF-%E9%87%8E%E5%8F%A3%E6%B7%B3/dp/4861711533